
西奈彌羽黒神社の例大祭のはじまりを告げる先太鼓は、7月7日の午前0時に神社を出発し、町中をくまなく回る伝統的な行事の一幕です。
まだ夜の明けない暗いうちに、遠くから先太鼓の軽快で清浄な音色が聞こえてくると、村上大祭を愛する町衆の心はいよいよ躍ります。
この先太鼓はかつて、庄内町の役割とされており、また、村上近郷(相川集落など)が担っていました。
時代の流れにより1985年(昭和60年)に伝統は途絶えてしまったかのように見えましたが、先太鼓の音色が聞こえないお祭りに一抹の寂しさを覚えた有志15人により「先太鼓の会」が翌年組織され、伝統の灯火は守られることとなりました。
先太鼓の会は神事の深部に関わるため、お祭りに対する熱意、伝統を重んじる心、奉仕する人望厚い人物であることが求められます。
先太鼓には2つの大きな役割があります。1つは神様がお越しになる先を打たせて祓い清める露払いの役割。もう1つは、人々にお祭りの時が来たことを知らせる御触太鼓の役割です。
神様がお越しになる道先を太鼓の音色が清める、という構造は、神話の「天孫降臨」における猿田彦大神による道開きなどの型に通じるものです。また、猿田彦大神は「鼻が長く、背が高く、目が大きな鏡のように光る」といった天狗や雷神の造形成立に大きく影響したほか、古くから建御雷神などの雷神を祭神として祀る神社などで猿田彦面が祭具として用いられてきました。
西奈彌神社の御祭神・奈都比売大神、月読大神、倉稲魂大神が農耕神の性格を湛えていることと、この先太鼓の構造が稲作に欠かせない雷(稲妻)を写していることに、私たちの先祖と通じ合うようなほかならぬ縁が感じられるようです。
村上大祭のはじまりを告げる音色を響かせて
お祭りの訪れを町中に知らせる「やれかがおきれ おこわまんまふかせ」という拍子を打ち鳴らしながら回る先太鼓は、途中で2手に分かれながら、全長約12kmにもおよぶ順路をたどります。
午前0時に神社を立ってから、戻るのは午前4時頃。その後、会員は各自の町内へ戻りおしゃぎり巡行の支度に加わります。
7月6日の夕闇迫る頃、本殿から絹垣に囲われる中に唐櫃(からひつ)に納められたご神体を麓の神輿殿にお遷し申し上げ安置する神事「遷霊祭」で、精進潔斎した後に白装束にあらため供奉する所役を先太鼓の会が担っています。
御神輿巡行においても行列の先頭に出て、行く道を清めるように先太鼓を響かせながら先導します。
例大祭前にも、御神輿や神社参道の清掃、大祭中の時間配分や休憩場所、物品の手配、人員配置の調整などを分担して行います。
お祓いで用いる忌み竹の調達も先太鼓の会で担うなど、例大祭だけでなく西奈彌羽黒神社の執務が円滑になされるための役割となっています。

渡部 不二人 会長
先太鼓の会は、様々な町内の個性的な人たち(クセのある)で構成されています。
当然、集まればお祭りにまつわる色々な話を聞くことが出来ます。社務所に集い、神社やお祭りについて言葉を交わし、時にはお酒をいただくことはとても貴重でありがたい経験です。なるべく神社のために、時間を使いたいという気持ちでいます。
役員をはじめ、会員とあらゆる相談や打ち合わせ、支度をしていると、不思議と「阿吽の呼吸」が生まれます。
7日の午前0時に神社を出発してから、誰が誰に声をかけるということもなく、自然とお互いの役割、立ち回りを補い合うようにして先太鼓を進めていく感覚は、何かが乗り移ったかのようです。
まだ暗い村上の町を回りながら「今年もしっかりと務めが出来ればいいな」と考える瞬間になります。
「阿吽の呼吸」で400年祭へ足場固めて
御神輿巡行を先導する役目の場合、7日朝に神社を出発してからしばらくの間、おしゃぎりなどのお祭りらしい様子を見ることはありません。巡行中は、お祭りの衣装に身を包んだ2人がご奉仕し、ほかの会員で支えながら進みます。
日が傾く午後3時頃、肴町の河内神社のそばでようやくおしゃぎりとすれ違います。その瞬間の感動は言葉に表せません。そして、「巡行を無事に終えた」という実感を得た時がまた格別です。
先太鼓の会も設立から40年を数えたことで、ゆるやかに自然な流れの世代交代を意識するようになりました。
それとはまた別に、どの町内も人が少なくなっていること、特に若手の働きが重要度と量を増してきているという現場があります。
しっかりと見聞きして、町内ごと、一人ひとりの事情を細やかに把握しながら、若い人たちにも力を発揮してもらえるようにしたいです。
数年後に控えている御遷座400年の節目に向けて、様々なことを盤石にしておくべく、役員組織をはじめ各種体制も同じ方向で足場固めに動き始めました。
1人の人間の生涯で100年単位の大きな節目に関わることができるのは、まずないことですので、先太鼓の会の会員やたくさんの人とともに気を引き締めて携わっていきたいです。
DATA
先太鼓の会
会長 渡部 不二人
設立 1986年(昭和61年)
会員数 34人
